代表的な5つの屋根の形状について
屋根の形状にはたくさんの種類がありますが、日本での標準的な戸建て住宅では、
・切妻屋根
・寄棟屋根
・方形屋根
・片流れ屋根
・陸屋根
この5つが屋根として多く採用されています。
それでは、5つの屋根の形状の詳細を見ていきましょう。
切妻(きりつま)屋根
切妻(きりつま)屋根は、日本の住宅の屋根に最も多く採用されている屋根形状で、一般住宅以外にも寺社や伝統的な日本家屋など至るところで目にすることができます。
屋根の棟(屋根の頂上)から地上に向けて2つの面が斜めに設置された屋根で、いわゆる三角屋根と呼ばれる形です。
この切妻屋根の内、屋根が設置されていない三角に見える側面を「妻側」、屋根が設置され壁面との境目が直線に見える側を「平側」と呼びます
切妻屋根を採用するメリットは、構造が屋根を2枚並べたシンプルな造りになっているため、雨漏りが発生するリスクが他の屋根形状より低い点です。
また、シンプルな分雨樋を設置する箇所も少なく、施工が容易なため工事費用を抑えることができます。
さらに、切妻屋根の三角部分はそのまま屋根裏スペースになりますが、屋根裏を広く確保することができるので換気性の良い住まいにすることができるでしょう。
切妻屋根を採用するデメリットとしては、妻側は平側と比べて紫外線や雨風の影響を受けやすくなっており、外壁が劣化しやすいです。
また、妻側に設置されている破風板も外壁と同じく紫外線や雨風によって劣化が起こりやすいので、外壁リフォームの際には補修を行う必要があります。
寄棟(よりむね)屋根
寄棟(よりむね)屋根は、屋根の頂上である棟から地上に向かって四方に流れる屋根形状で、棟を四方から中央に寄せているように見えるので寄棟と呼ばれます。
こちらも切妻屋根と同じく日本の住宅では非常に多く採用されている屋根形状で、瓦屋根でも多くみられる形状です。
非常に頑丈な構造になっており、屋根の面積が切妻屋根と同じでも切妻屋根は屋根が2面なのに対して寄棟屋根は4面なので、台風など強風に対しても強いという特徴があります。
寄棟屋根を採用するメリットは上述の通り、屋根が4面あるため構造的に安定しており、耐風性に優れるだけでなく雨や雪を効率的に地上へと流すことができます。
また、切妻屋根のデメリットでご紹介した「妻側が劣化しやすい」という弱点をカバーしており、全方位の外壁を紫外線や雨風から守ってくれます。
寄棟屋根を採用するデメリットとして、屋根の面が増えるため工事費用はやや高額になりがちです。
加えて、屋根の面が重なり合う棟部分が構造上最低でも5カ所と多く、雨漏りが発生するリスクが切妻屋根より増してしまう点にも注意が必要です。
さらに、切妻屋根と比べると屋根裏スペースは狭く、屋根裏に湿気をため込みやすくなっているので、屋根内部の腐食や劣化がやや起こりやすくなっています。
方形(ほうぎょう)屋根
方形(ほうぎょう)屋根は、屋根の1か所が頂点になっているピラミッド型の形をした屋根形状です。
ピラミッドを想像してもらうとわかりやすいですが、屋根の頂点から同じ角度で4面に広がる構造になっています。
寄棟屋根に似た造りになっているので若干まぎらわしいですが、寄棟屋根には大棟(屋根頂上の直線状の棟)がありますが、方形屋根は頂点があるのみで大棟はありません。
正方形に近い建物で採用される傾向にありますが、日本では長方形の建物が多く正方形の建物は少ないため、比例して方形屋根を採用している建物は全体的に少ないです。
方形屋根を採用するメリットは、寄棟屋根と同じく屋根面が4面あるので、雨や雪を効率的に地上へと流すことができ、耐風性に優れます。
また、寄棟屋根と比べて棟が少ない構造になるので、寄棟屋根より雨漏りが発生するリスクが低くなります。
方形屋根を採用するデメリットは、上述の通り正方形に近い建物で採用される屋根形状なので、建物の形状によっては設置ができない場合があるという点です。
さらに、構造上屋根内部の湿気を逃がす場所が少なく、湿気による屋根内部の劣化にも注意する必要があります。
片流れ(かたながれ)屋根
片流れ(かたながれ)屋根は、その名前の通り一方向へ向けて斜めに流れる一枚屋根です。
シンプルかつスタイリッシュなデザインとなるので、近年新築住宅で採用率が高まっている人気の屋根形状です。
片流れ屋根を採用するメリットは、そのおしゃれな形状がデザイン性に優れるだけでなく、省スペースのため住宅密集地での屋根として適しています。
屋根裏のスペースも広く、空間を居住スペースとして活用することができ、シンプルな構造なので他の屋根形状と比べると工事費用を抑えることが可能です。
片流れ屋根を採用するデメリットは、雨漏り対策をしっかりしておかないといけない点です。
片流れ屋根では棟と破風板が雨漏りが発生する原因箇所になりやすいので、雨水を適切に地上へと排水するための雨仕舞いをきちんと設置しておく必要があります。
また、屋根によって外壁を守っている箇所が少ないので、外壁が劣化しやすい点にも注意しましょう。
陸(ろく)屋根
陸(ろく)屋根は、勾配のないフラットな屋根を指し、屋上がある住宅以外ではマンションやビルの屋上で多くみられる屋根形状です。
陸屋根という名称以外にも、「平屋根」「フラット屋根」と呼ばれます。
フラットな屋根といわれますが、実際には排水のためわずかですが傾斜がつけられており、表面には防水処理が施されています。
陸屋根を採用する最大のメリットは、屋根が歩行可能なフラットな屋上として利用できる点でしょう。
ガーデニングをはじめ、バーベキューや洗濯物を干す場所など、さまざまなシーンで有効活用することができます。
さらに、屋上なので出入りや歩行が容易なので、メンテナンスがしやすいのも陸屋根を採用するメリットのひとつです。
陸屋根を採用するデメリットは、傾斜がほぼ無いので水はけが悪く、防水工事による雨漏り対策が必須になる点です。
防水層が劣化すると雨漏りが発生するリスクが一気に高まるため、およそ10年に一度のメンテナンスが欠かせません。
また、他の屋根形状と比べると、屋上と居住スペースの間の空間が狭いため断熱性能は低めで、夏場は日差しによる室温上昇が起こりやすいです。
上記以外の屋根の形状について
前項では、日本の住宅に多く採用されている代表的な5つの屋根形状をご紹介しました。
しかし屋根の形状にはご紹介した5つ以外にもさまざまな屋根形状が存在します。
ここでは、代表的な5つの屋根以外の屋根形状について見ていきましょう。
招き(まねき)屋根
招き(まねき)屋根は、切妻屋根と似たような屋根の構造になっていますが、切妻屋根の屋根の2面が対称なのに対し、招き屋根の2面は非対称になっています。
そのため、片方が長く片方が短いという、招き猫の前足に似ている形状になっているので招き屋根と呼ばれています。
片流れ屋根に近い機能を持っており、片側からの採光・通気を確保しながら、片流れ屋根のデメリットである雨漏りにも強くなっているので、機能面で非常にバランスの良い屋根です。
ただし、切妻屋根と同じく妻側の外壁の劣化、妻側に設置されている破風板の劣化は起こりやすいので、その点には注意が必要です。
差し掛け(さしかけ)屋根
差し掛け(さしかけ)屋根は、切妻屋根や招き屋根の棟部分をずらしたような形状をしている屋根です。
1階の面積が2階より広くなっている建物に多くみられる屋根で、その独特なデザイン性を好んで差し掛け屋根を採用している方が年々増えています。
差し掛け屋根は2階から1階の屋根表面を見ることができるので、施主様の方でも屋根の劣化が把握しやすくなっています。
越(こし)屋根
越(こし)屋根は、切妻屋根の中央の一部を上に持ち上げたような屋根形状で、屋根の上に小さな2階を乗せたような形になっています。
この持ち上げられた2階部分は屋根舎と呼ばれ、この立ち上がりを利用して換気・採光をとることができます。
大きな建物でないと屋根舎を設置できないため、越屋根が採用されるのは比較的大きな屋根を持つ建物に限られます。
入母屋(いりもや)屋根
入母屋(いりもや)屋根は、屋根上部に「矢切り」と呼ばれる壁が設置されている屋根です。
日本の伝統における格式では、寄席屋根より切妻屋根の方が格式が高いとされていますが、その切妻屋根より格式が高いのがこの入母屋屋根です。
歴史の古い寺社・仏閣でも多く採用されている屋根形状ですが、屋根材に瓦を採用している一般住宅でも多くみられる形状で、屋根全体に重厚感があり高級感を感じさせてくれる屋根です。
錣(しころ)屋根
錣(しころ)屋根は、入母屋屋根と混同されることが多い屋根ですが、屋根の角度が途中で緩い傾斜へと変わるという点が入母屋屋根と異なります。
錣とは、兜や頭巾の左右や後ろに垂れている首を覆うための場所を指しますが、屋根の形状がこの錣と似ていることからこの名前が付けられたとされています。
鋸(のこぎり)屋根
鋸(のこぎり)屋根は、片流れ屋根が2つ以上連なったような、のこぎりの刃のように見える形状の屋根です。
屋根材同士の間の壁面には窓や開口部を取り付けることができるので、工場などで多くみられる屋根形状です。
屋根の形状はどれがおすすめ?
ここまで、様々な屋根の形状について解説してきました。
皆様が気になるのは、「じゃあこの中でどの屋根が一番良いの?」ではないでしょうか?
どの屋根形状が最適なのかは、皆様のご要望や住まいの立地などによって異なります。
これから新たに家を建てる方、あるいは大掛かりな住宅リフォームをされる方向けになってしまいますが、ここでは様々なシーンを想定して、そのシーンごとに最適な屋根をご紹介します。
初期費用を抑えたい方向けの屋根形状
屋根だけの工事費用で考えた場合、最も費用を抑えることができるのは構造がシンプルな片流れ屋根です。
しかし、片流れ屋根を採用すると外壁の面積が大きくなるため、外壁にかける費用は比例して増えてしまいます。
そのため、新築や大掛かりなリフォームなど住宅全体で考えた場合には、切妻屋根が最も工事費用を抑えられる屋根形状になります。
また切妻屋根は、雨漏りが発生するリスクも他の屋根形状より低いので、メンテナンスや修繕工事などランニングコストもかかりにくく、非常にコストパフォーマンスが良い屋根形状といえるでしょう。
とにかく雨漏りリスクを回避したい方向けの屋根形状
日本の住宅における代表的な5つの屋根形状の中で、最も雨漏りしにくい屋根形状は切妻屋根です。
もちろん雨漏りが起こるかどうかは住まいの立地や周辺環境、施工業者の技術力などさまざまな要因が絡むので一概には言えませんが、
切妻屋根→片流れ屋根→方形屋根→寄棟屋根
一般的に上記の順番で雨漏りが発生するリスクは低いとされています。
とにかく雨漏りリスクを回避したい方は、切妻屋根か片流れ屋根を採用するのがおすすめです。
外壁の劣化を抑えたい方向けの屋根形状
屋根によって外壁を紫外線や雨風から守り、できる限り外壁の劣化を防ぎたいという方は寄棟屋根と方形屋根がおすすめです。
軒をどれくらいとるのかによって外壁が守られる面積も変わってきますが、寄棟屋根と方形屋根は建物の4方向すべての外壁を守ってくれる屋根形状です。
切妻屋根と片流れ屋根は屋根・軒が存在しない面ができるため、外壁の劣化を抑えたいという方にはあまりおすすめできません。
デザイン性を重視したい方向けの屋根形状
デザイン性を重視したい方には、外観をスタイリッシュに演出してくれる片流れ屋根や陸屋根がおすすめです。
片流れ屋根は、近年新築住宅で採用率が高まっている人気の屋根形状ですし、陸屋根は屋上をガーデニングなどで好きにアレンジすることが可能です。
一方、切妻屋根や寄棟屋根、方形屋根は和風・洋風問わずどんな住宅であってもマッチしやすい屋根形状といえます。
特に切妻屋根は、屋根材や外壁材問わず、どんなデザインにも合う汎用性の高い屋根形状となっています。
屋根の名称や特徴、メリット・デメリット まとめ
大切なマイホームで長く快適に暮らしていく上で、屋根は住宅を守るために欠かせない場所です。
そして、屋根の形状によって、屋根の機能やメンテナンスにかかる手間や費用、そしてデザインが大きく異なります。
もし、屋根の形をどれにしようか迷ってらっしゃる方は、機能・コスト・デザインの中から何を優先するのかを決めましょう。
何を優先するのかが決まれば、ご自宅の屋根にピッタリな屋根形状が見つけやすくなるはずです。